世界中のクラシック界の視線を一身に集める14歳の天才ヴァイオリニスト、HIMARI(吉村妃鞠)さん。
HIMARIさんがこれまでに成し遂げてきた国内外のコンクール全冠制覇、名門カーティス音楽院への最年少入学、そしてベルリン・フィルハーモニー管弦楽団をはじめとする世界最高峰のオーケストラとの共演は、まさに「100年に1人の逸材」の名にふさわしいものです。
しかし、近年HIMARIさんのステージを聴いた人々は、これまでにない「凄み」と「地鳴りのようなエネルギー」を肌で感じています。
その背景にあるのが、彼女が手にした新たな相棒――伝説の名器「グァルネリ・デル・ジェズ(Guarneri del Gesù)」との出会いです。
かつて愛用していた気品溢れるストラディバリウスから、野性味を帯びたグァルネリ・デル・ジェズへ。この世紀の乗り換えは、HIMARIさんの演奏にどのような劇的な変化をもたらしたのでしょうか?
今回は、グァルネリ・デル・ジェズという楽器の歴史、製作者のドラマ、そしてHIMARIさんの演奏が具体的にどう変わったのかを深掘りしていきます。
最後まで読んで感想をコメントしてくださると嬉しいです。
「グァルネリ・デル・ジェズ」奇跡の楽器とは?
クラシック音楽の世界において、「ヴァイオリンの最高峰」として双璧をなすのがアントニオ・ストラディバリとバルトロメオ・ジュゼッペ・グァルネリです。しかし、この二つの楽器が持つキャラクターは、正反対と言っても言い過ぎではないでしょう。
まず、グァルネリ・デル・ジェズがなぜ特別視されるのか、その「歴史」「製作者」「制作過程」を詳しく見ていきましょう。
「バルトロメオ・ジュゼッペ・グァルネリ」孤独と狂気の天才
グァルネリ・デル・ジェズを生み出したのは、イタリア・クレモナの弦楽器製作者バルトロメオ・ジュゼッペ・グァルネリ(1698〜1744)です。
バルトロメオ・ジュゼッペは、ヴァイオリン製作の名門として知られていたグァルネリ家に生まれました。
しかし、同時代には「完璧なる巨匠」としてヨーロッパ中の王侯貴族を顧客に持っていたアントニオ・ストラディバリが君臨していたのです。
富と名声を手に入れたストラディバリに対し、ジュゼッペの生涯は決して順風満帆ではなく、常に経済的な困窮や孤独と隣り合わせだったと伝えられています。
ジュゼッペ・グァルネリが作った楽器がなぜ「グァルネリ・デル・ジェズ」と呼ばれるようになったのでしょうか?
ジュゼッペの製作したヴァイオリンにはラベルに、クリスチャンとしての信仰を示す「I.H.S.(イエス・キリストを意味するギリシャ語の頭文字)」と十字架のマークが常に刻まれていました。
人々は敬意と親しみを込めてジュゼッペ・グァルネリを「デル・ジェズ(イエスのジュゼッペ)」と呼ぶようになり、ジュゼッペの作った楽器もまた「グァルネリ・デル・ジェズ」と呼ばれるようになったのです。
グァルネリ・デル・ジェズ:美の概念を破壊した「計算された荒々しさ」
ストラディバリが1ミリの狂いも許さない幾何学的な美しさと、完璧な調和を追求したのに対し、デル・ジェズの楽器作りのプロセスは「直感的」かつ「破壊的」でした。
デル・ジェズは、ストラディバリが完成させた「ヴァイオリンの完璧な規格」をあえて無視するかのような独自の工夫を凝らしました。
- 厚みのある木材: 彼は表板や裏板の木材を、あえてストラディバリよりも厚めに残しました。
これにより、楽器自体の強度が上がり、激しい弓の圧力(ボウイング)に対しても音がつぶれず、より大きなエネルギーを受け止められる構造になりました。 - 非対称のF字孔とスクロール: 彼の楽器の多くは、左右のF字孔(音を響かせる穴)の長さや角度が微妙に異なります。
頭部のスクロール(渦巻き)の彫刻にも、ノミの削り跡が荒々しく残されているものが少なくありません。
特に、ジュゼッペの晩年(1730年代後半〜1744年)に作られた楽器は、その傾向が際立っています。
一説には「アルコール中毒に苦しみながら、狂気の中で木を削った」とも噂されるほど、仕上げは粗野に見えます。
しかし、その「完璧ではない歪み」と「厚み」こそが、現在の最新の音響工学でも再現できない、深く、暗く、圧倒的に太い爆発的な音響を生み出す奇跡のバランスとなったのです。
その直観力は天才としか言いようがないですね。
グァルネリ・デル・ジェズ希少価値と神格化
ストラディバリが長寿を全うし、約600〜700挺ものヴァイオリンを現代に残したのに対し、デル・ジェズは45歳という若さでこの世を去りました。
そのため、デル・ジェズの手による本物のヴァイオリンは世界に約150〜200挺しか現存していません。
19世紀に入り、超絶技巧の怪人ニコロ・パガニーニは、デル・ジェズが1743年に製作した愛器「イル・カノン(大砲)」によってヨーロッパ中を熱狂させました。
それによりデル・ジェズの評価は一気に神格化されたのです。
ストラディバリウスが「宮廷の貴婦人のような洗練された美音」なら、グァルネリ・デル・ジェズは「聴衆の魂を鷲掴みにする悪魔的な咆哮」と表現されています。
ヴュータン、クライスラー、ハイフェッツといった歴代のヴィルトゥオーソ(巨匠)たちがこぞってデル・ジェズを求めた歴史が、その魅力を物語っています。
この時代の職人気質にはゾクゾクするような情熱が感じられて、290年近い古い楽器にその命が宿っていることに興奮をおぼえます。
HIMARIが手にした1732年製「フェルニ(Ferni)」の新たな顔
14歳を迎えたHIMARIさんは、いま音楽的な大転機を迎えています。
それまでHIMARIさんが使用していたのは、前澤友作氏が所有する1717年製のストラディヴァリウス「ハンマ(Hamma)」でした。
世界屈指の名器であり、HIMARIさんの端正なテクニックを世界に知らしめる素晴らしい相棒だったのです。
でも成長とともに内面から湧き上がる音楽的エネルギーが、ストラディバリウスの「完璧な美しさ」に物足りなさを感じるようになります。
音はどこまでも美しいけれど、自分の魂のすべてをぶつけるには、もっと深く、自分を前に押し出してくれる強靭な楽器が必要なのではないか…。
そんな時にHIMARIさんの前に現れたのが、株式会社クリスコ(代表取締役 志村晶氏)より貸与された、1732年製のグァルネリ・デル・ジェズ「フェルニ(Ferni)」でした。
1732年製といえば、デル・ジェズがその独自の作風を確立し、まさに職人としての全盛期・黄金期へと向かう重要な時期の作品です。
この1732年製のグァルネリ・デル・ジェズ「フェルニ(Ferni)」との出会いによってHIMARIさんの才能は、これからますます磨きがかかっていくことでしょう。
その変化を聴けるとは…!楽しみですね。
HIMARIの演奏はどのように変わったのか?
グァルネリ・デル・ジェズ「フェルニ」を手にしたことで、HIMARIさんの演奏はこれまでの「天才少女の演奏」から「聴衆を圧倒する一人の偉大な芸術家」へと進化しています。
楽曲や演奏の細部における進化のポイントを3つ、具体例を挙げて解説しましょう。
デル・ジェズ:G線(最低音弦)大地を揺るがす「地鳴り」のような低音
ヴァイオリンの4本の弦の中で、最も太く低い音を出すのがG線です。
グァルネリ・デル・ジェズは、このG線の鳴りの深さにおいて他の追随を許しません。
- ストラディバリウス時代: 低音域であっても、シルクのように艶やかで上品な響きを保っていました。
それは洗練された美しさであり、均整の取れた古典的な名演を生み出す原動力でした。 - デル・ジェズ移行後(パガニーニの楽曲や協奏曲の導入部): G線に弓が触れた最初の一音から、空気の震え方が全く変わりました。
HIMARIさんが強いボウイングで低音を弾き込んだ際、音が「綺麗に鳴る」のを通り越し、大地の奥底から響く地鳴りのような、あるいは野生動物の咆哮のような太く凄みのある音へと変化しています。
14歳という小柄な身体から放たれているとは到底信じられない、ホールの空間を支配する圧倒的な響きが生まれました。
デル・ジェズ: 重音(ダブルストップ)と超絶技巧における「音の芯」の強度
複数の音を同時に鳴らす重音奏法や、目にも留まらぬ速さで駆け上がる超絶技巧において、楽器のキャラクターの違いが最も大きく現れます。
- 具体例:『パガニーニアーナ(Paganiniova)』などのヴィルトゥオーソ作品
HIMARIさんが近年披露しているミルシテイン編曲の『パガニーニアーナ』では、凄まじい跳躍や重音が連続します。
ストラディバリウスでは、一音一音が結晶のようにクリアに分離して聴こえる美しさがありましたが、デル・ジェズに変えてからは「一音一音の芯の太さ」が尋常ではなくなっています。
激しい打弦や、弓を叩きつけるようなスタッカート(スピッカートといいます)を行っても、音が決して割れたりかすれたりせず、鋼(はがね)のような強靭さを持っています。HIMARIさんの持つ天性のリズム感と推進力がさらに強調され、聴き手をぐいぐいと演奏に引き込む力が増しているように思います。
デル・ジェズ:ダイナミクスな感情表現
ストラディバリウスは、ある一定以上の強さで弾きすぎると、楽器のキャパシティを超えて音が潰れてしまうことがあります(そのため、洗練されたコントロールが必要です)。
しかし、肉厚に作られたデル・ジェズは、弾き手がエネルギーを込めれば込めるほど、どこまでもそれを受け止め、弾き手の力を高めてくれるのです。
- ダイナミックレンジ(音量の幅)の拡大
HIMARIさんは、自身のインタビューでも「この楽器(デル・ジェズ)は、私を前に押し出してくれる」と語っています。彼女の内面にある「もっとこう表現したい」「もっとエネルギッシュに叫びたい」という音楽的欲求に対し、楽器が120%の打たれ強さで応えてくれるようになったのでしょう。ささやくような最弱音(ピアニッシモ)の緊張感から、オーケストラ全体を突き抜けて響き渡る最強音(フォルテッシモ)への爆発力も併せ持っています。
このダイナミクスの幅が2倍にも3倍にも広がったことで、HIMARIさんの演奏のドラマ性とエモーショナルな説得力は、大人の巨匠たちをも脅かすレベルへと達しました。
HIMARI×グァルネリ・デル・ジェズ:楽器が選んだ天才、才能が引き寄せた名器
18世紀のクレモナで、孤独な天才ジュゼッペ・グァルネリが「表現力」を追求し、情熱をもって命を吹き込んだグァルネリ・デル・ジェズ。
それが約290年の時を超え、現代の日本に生まれたHIMARIさんという若き天才の手に渡ったことに、運命を感じます。
HIMARIさんの演奏の本質は、聴き手の魂を揺さぶる圧倒的な生命力とエネルギーにあります。
グァルネリ・デル・ジェズ「フェルニ」は、HIMARIさんの魂の片割れとも言えるのではないでしょうか。
「彼女の音楽性とグァルネリの野性味は驚くほど相性がいい」と、世界の専門家たちも口を揃えて絶賛しています。
14歳にして伝説の名器の可能性を引き出し始めたHIMARIさんが、これから世界中のステージでどんな新しい音楽の歴史を刻んでいくのでしょうか。
私たちは今、歴史的な瞬間を目撃していると言ってもよいでしょう。
HIMARIさんが14歳の転機に手にしたグァルネリ・デル・ジェズの深い音色と、エネルギー溢れる演奏を聴きたい方は、「HIMARIさんがパガニーニ愛用の名器で弾く『パガニーニアーナ』」のYouTube動画をおすすめします。
HIMARIさんの魂の叫びとも言える、G線の響きと圧倒的なダイナミクスを感じることができると思います。
14歳の天才ヴァイオリニスト名器グァルネリとの出会い

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