「歌曲王、シューベルト」と言われるのを聞いたことはありませんか?
でも、なぜそう呼ばれるのでしょうか。
歌曲を600曲以上も書いたから?
ただ曲数が多いだけでは、このようには言われませんよね。
シューベルトは、詩を音楽によみがえらせた作曲家だったからです。
詩の奥にある意味や感情を、汲み取って歌とピアノで表現したのです。
詩に対する感受性、洞察力、想像力が並外れていたと言えるのではないでしょうか。
また、ピアノパートにも大きな変革があったことも見逃せません。
従来の歌曲はピアノパートが伴奏という役割だったのを、詩のドラマ性を表現する音楽にしたのです。
これによって歌曲の芸術性がいっそう高められました。
では、どんな詩からどんな音楽が生まれたのか、代表的な名曲とともに見ていきましょう。
最後まで読むと、シューベルトの歌曲を聴いてみたくなると思います。
シューベルトの歌曲とは?
歌曲(リート)とは、詩に音楽をつけて歌う芸術です。
◆歌手(声)=登場人物 詩に登場する人物の言葉を歌います。
◆ピアノ=詩の情景、登場人物の感情や心理を表現します。
◆詩=詩の中にあるドラマ性を深堀し、感動をさそいます。
詩が物語りとなり、想像をさそう音楽となるのが歌曲です。
そしてシューベルトは、歌曲を芸術の域に高めた作曲家です。
シューベルトの歌曲「魔王」一人の歌手が4役を演じる音楽ドラマ
◆父・子・魔王・語り手の4役を一人の歌手が声の高低、テンポ、強弱などで演じ分ける
◆ピアノは馬の疾走を表現
◆数分で緊張が頂点へ
シューベルト18歳のときの作品です。
シューベルトはヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの「魔王」という詩に感動し、作曲に至ったのです。
短時間のうちに書き上げたそうですが、友人のシュパウンによるとこの詩を読んでシューベルトは部屋の中を行ったり来たりしていたとか。
とても興奮していたようです。
曲は緊迫感のあるピアノの序奏から始まります。
この音型が馬の走る様子を表して、最後までくり返えされるのです。
語り手、嵐の中を息子を抱いた父親が、馬で疾走する様子を歌います。
息子は父親に、「魔王が自分をさらいに来る」と訴えますが、父親は息子の勘違いだとなだめるのです。
遠くから魔王の誘うひそひそ声が聞こえて、息子はさらに怯えますが、父親は本気にしません。
ピアノはどんどん緊迫感をまし、息子の「お父さん、お父さん、魔王の声が聞こえないの?」と叫ぶ声、父親のなだめる声、魔王のささやき声…ドラマの息詰まる展開が音楽によって、いっそう緊張感を高めます。
そして結末はどうなったのか? 聴いてみましょう。
これが18歳の青年シューベルトの作品なのです。
まさに天才!としか言いようがないですね。
シューベルトの歌曲「野ばら」みんなが知っている童謡
シンプルで、しかも忘れられない旋律
◆短く親しみやすい
◆子どもも覚えられるメローディー
◆詩には物語性がある
「わらべは見たり、野なかのバラ、清らに咲ける、その色めでつ・・・」
「あっ知ってる!」でしょ?
日本では童謡として知られていますよね。
この曲もゲーテの詩によるもので、「魔王」と同じ時期に作られたのです。
ドイツ語の歌詞は、日本語の歌詞のようにやんわりとしたものではなく、直接的な表現です。
少年が美しい赤いバラを見て、そのバラが欲しくなり「おまえを摘むよ」とバラに話しかけると,バラは「ならばあなたを刺すよ」と答えます。しかしバラの抵抗もむなしく、少年に手折られてしまうという詩なのです。
一説によると若きゲーテの恋愛が題材とか。
童謡の「野ばら」からは想像できませんよね。
この曲はフィッシャー・ディスカウの歌とジェラルド・ムーアのピアノの組み合わせが素敵です。
激しさもあり、意外性もあって「おや?」と思うのではないでしょうか。
YouTubeで検索してみると良いでしょう。
シューベルトの歌曲集「冬の旅」より「菩提樹」
シューベルトが亡くなる直前に完成した連作歌曲集「冬の旅」24曲中の第5曲が「菩提樹」です。
ヴィルヘルム・ミュラーの詩集「冬の旅」によるもので、失恋した青年が街を去り、さすらいの旅に出るところから始まります。
旅先で出会うこと、それによる心情を物語るように歌われていくのですが、背景にはその当時の社会にたいする不満、自由主義への渇望が描かれているといわれています。
「冬の旅」は暗い内容で、友人たちはシューベルトの演奏を聴いて、とても驚き言葉を失ったということです。
友人の一人ショーバーがやっと一言、「菩提樹は気に入った」と言いったとのこと。
シューベルトはその時「僕はこの曲が一番好きだ。君たちにもきっとこの曲が分かる時が来るよ」と言ったそうですが、シューベルトの死後、「傑作」として知られることになりました。
「菩提樹」はこの曲集の中でもっとも明るく、多くの人に親しまれてポピュラーな曲となっていますよね。
合唱曲にも編曲されているので、コーラスの発表会にも取り上げられることが多いですね。
日本語訳は近藤朔風です。古い言葉で訳されているので分かりにくいところもありますが、奥ゆかしさが感じられます。
下記に1番を掲載します。
泉に添いて しげる菩提樹
慕いゆきては うまし夢みつ
幹には、彫(え)りぬ ゆかし言葉
うれし悲しに、と(訪)いしその陰
この曲もディートリッヒ・フィッシャー・ディスカウの演奏をぜひ聴いてみて下さい。
ピアノパートはジェラルド・ムーア盤と、アルフレッド・ブレンデル盤があります。
聴き比べるのも面白いのではないでしょうか。
シューベルトの歌曲「アヴェ・マリア」古城の美人による祈りの歌
世界中で愛される祈りの歌ですね。
アヴェ・マリアの意味は知っていますか?
アヴェ・マリアとはラテン語で、カトリックの典礼文(カトリック教会の公式な文書)の中にある祈祷の言葉です。
天使がマリアの受胎告知(イエス・キリストを授かった)に対する「こんにちは、マリア。おめでとう、マリア」という挨拶の言葉だそうです。
宗教曲ですから、古くからたくさんの人に作曲されてきています。
しかし、シューベルトのアヴェ・マリアは、典礼文によるものではありません。
スコットランドの作家ウオルター・スコットの叙事詩から作曲した「ウオルター・スコットの≪古城の美人≫による7つの歌曲」にある第6曲目が「アヴェ・マリア」なのです。
≪古城の美人≫の叙事詩はスコットランドのカトリン湖を舞台とした、乙女エレンの恋と恋人マルコムの武勇伝が中心となったお話です。
お父さんとマルコムがスコットランド軍に捕らえられてしまったので、エレンが洞窟で聖母マリアに祈りをささげる「アヴェ・マリア」を歌うのです。
シューベルトの「アヴェ・マリア」はこの詩に曲をつけたものです。
それで宗教曲ではなく、ドイツリート(歌曲)として分類されています。
純粋な澄んだ魂を感じさせる美しいアヴェ・マリアは、すぐに評判となり大変な人気だったそうです。
結婚式や映画でも広く使われているので、耳にしたことがあるのではないでしょうか。
心がざわついた時などにおススメの曲です。
おやすみ前に聴くと、ぐっすり眠れるかもしれませんよ。

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