ゆったりと静かなメローディーなのに、心惹かれる曲。
そんな曲の一つにゲオルク・フリードリッヒ・ヘンデルのラルゴ≪オンブラ・マイ・フ≫があります。
「ラルゴ=Largo」というのはイタリア語で≪ゆるやかに≫という速度をあらわす言葉です。
ヘンデルはこの曲に「ラルゴ」という名前を付けたわけではありません。
ゆっくり歌われる曲なので「ラルゴ」といわれるようになったのです。
癒し系の音楽として親しまれているこの曲、実は≪木をたたえる歌≫なんです。
≪木をたたえる歌≫なんて言ってもピンとこないかもしれませんね。
ヘンデルはこの短い歌に隠された、意外な物語をオペラにしたのです。
どんな物語なの?
オペラってどんな曲?
物語のあらすじとともに、ラルゴ≪オンブラ・マイ・フ≫の魅力を紐解いていきましょう。
ラルゴ≪オンブラ・マイ・フ≫とはどんな曲?オペラ「セルセ」とは?
≪オンブラ・マイ・フ≫は、1738年に作曲されたヘンデルのオペラ「セルセ」の中のアリアです。
オペラ「セルセ」は、恋愛や嫉妬が入り乱れる、どちらかと言えばコミカルな作品です。
主人公の「セルセ」というペルシャ王の名前がこのオペラの名前になっています。
王様は異国に婚約者がいるにもかかわらず、弟アルサメーネの恋人ロミルダに一目ぼれをしてしまい、妻にしようとしていました。
そして弟アルサメーネに片思いしているロミルダの妹アタランタは、ロミルダをセルセに結び付け
ようといろいろ画策します。
しかしアルサメーネはアタランタには興味が無く、これは失敗に終わりました。
一方、セルセの婚約者アマストゥレは、セルセの心変わりを怒り、男装をして乗り込むのです。
いろいろ誤解が重なりハラハラしたり笑ったりさせられるのですが、終幕ではセルセは自身の非を詫びて婚約者のアマストゥレと結婚し、ロミルダとアルサメーネも結ばれて「メデタシメデタシ」ハッピーエンドとなりました。
このオペラはオペラ・セリア(正歌劇といわれる真面目なオペラ)とされていますが、重厚さより、コミカルで親しみやすいオペラです。
それでもヘンデルのこのオペラは格調たかい、正統派の音楽で書かれているところが聴きどころでしょう。
ラルゴ≪オンブラ・マイ・フ≫は実は木の歌?歌詞の意味を簡単に解説
ロミルダに一目ぼれをしたセルセ王が、美しいプラタナスに向かって、木陰の心地よさを歌っているのが、≪オンブラ・マイ・フ≫です。
愛するロミルダへの想いをプラタナスにことよせて歌っているのです。
こんなにも美しく
こんなにも愛おしく
こんなにも心地よい木陰は
かつてなかった
この歌は驚くほど荘厳で、祈りの歌のようにも聴こえます。
≪オンブラ・マイ・フ≫は日本でも1986年にニッカウヰスキーのコマーシャルで歌われて、一躍有名になりました。
ソプラノ歌手キャスリーン・バトルの美しい歌声と、背景に流れる美しい映像とでニッカウヰスキーの売り上げが2割以上も伸びたそうです。
ラルゴ≪オンブラ・マイ・フ≫オペラの中での役割とギャップとは?
この美しいアリアは、オペラの初めに歌われます。
アリア(主にオペラやオラトリオで独唱者が歌う)は、ドラマが盛り上がりを見せる場面で歌われることが多いのですが、「セルセ」でこのアリアは序曲のあとの、レチタティーヴォ(状況を説明するような独唱)に続けて歌われます。
これだけでもとてもユニークな作品と言えるでしょう。
そして「セルセ」という作品自体は、恋愛や嫉妬が入り乱れる、コミカルな物語です。
音楽は神聖さを感じるほど美しいのに、物語はドタバタ!
このギャップの面白さがこのオペラの特徴です。
この静かな始まりがその後に展開されるドラマを、より鮮やかなものにしているのかもしれません。
ペルシャ王セルセを風刺するこのオペラは、貴族社会の崩壊が始まり、バロック時代の音楽が民衆のものになりつつあることを現わしていると思います。
ラルゴ≪オンブラ・マイ・フ≫は管弦楽、ヴァイオリン、ピアノ曲にも編曲
オペラのアリアとして有名になったラルゴ≪オンブラ・マイ・フ≫は、美しいメロディーと荘厳な雰囲気が魅力となって、管弦楽や器楽曲にも編曲されています。
◆ヴァイオリン・・・人の声に最も近いといわれる楽器
歌の呼吸を感じさせる微妙なニュアンスを表現することができるため、旋律の美しさが
際立って聴こえます。
言葉がないだけに、純粋な美しさを感じることができるでしょう。
◆ピアノ・・・・・歌うのは難しい楽器
でも、左手の和声やリズムの工夫で歌わせることができるのです。
より内面的な表現が可能となり、語りかけるような音楽になります。
◆管弦楽・・・・・重厚なラルゴ
音の厚み、ハーモニーの広がり、空間のスケール感が味わえます。
敬虔な祈りの音楽、宗教曲のようにも、森全体に広がる木陰のようにも聴こえるでしょう。
≪オンブラ・マイ・フ≫は美しい歌なのに、楽器でもその特性を生かした音楽に変身してしまう。
そして本来の旋律の美しさは損なわれることがないのです。
ぜひ、歌と器楽に編曲した曲を聴き比べてみて下さいね。
きっとそれぞれの良さを楽しむことができ、≪オンブラ・マイ・フ≫の奥深さも感じられると思います。

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